
はじめまして、三浦陽介と申します。
自治体の都市計画課に15年間勤めたあと、いまはフリーランスのライター兼まちづくりコンサルタントとして活動しています。
在職中、バリアフリー基本構想の策定やGISを使った都市計画データの整備に長く関わってきました。
その中で何度も目にしたのが、「GISデータの構築を外部に委託したものの、うまくいかなかった」という事例です。
予算を確保し、プロポーザルで業者を選定し、納品まで完了した。
なのに、数年後にはデータが塩漬けになっている。
残念ながら、こういったケースは珍しくありません。
原因はたいてい、発注の段階で「見落としていたこと」にあります。
技術的に高度な問題ではなく、仕様書に数行足すだけで防げたはずのことが抜け落ちている。
今回は自治体がGISデータ構築を外注する際に見落としがちな3つのポイントについて、現場経験をもとにお話しします。
目次
自治体のGIS活用はどこまで進んでいるか
まず、現状を簡単に整理しておきます。
GIS(地理情報システム)とは、地図データにさまざまな属性情報を重ね合わせて、視覚的に管理・分析できるシステムです。
自治体では固定資産税の課税管理や上下水道台帳、道路台帳、都市計画図などに幅広く使われています。
たとえば、住民から「この土地の用途地域は何ですか」と問い合わせが来たとき、紙の図面をめくるのではなく、画面上で地番を検索すればすぐに回答できる。
GISはそういった日常業務の効率化に直結するツールです。
2007年に施行された「地理空間情報活用推進基本法」により、国と地方公共団体がGISの整備・活用を進める責務が明確化されました。
国土地理院の解説ページでも、この法律の趣旨として地理空間情報の活用推進と基盤整備の重要性が説明されています。
それから約20年が経ち、統合型GISの導入率は都道府県で51.1%、市区町村で63.1%に達しています(令和4年・総務省公表データ)。
統合型GISとは、部署ごとにバラバラだったGISを庁内横断で共通の地図基盤に統合したもので、固定資産・道路・上下水道などの情報を一つのシステム上で重ねて見られるようにする仕組みです。
数字だけ見れば、導入はかなり進んでいるように見えます。
ただ、私が現場で感じていたのは「導入したけれど使いこなせていない」ケースの多さでした。
その背景には、外注時の設計ミスが少なくありません。
以下、特に見落とされやすい3つのポイントを取り上げます。
ポイント1:データの標準化と互換性を仕様書の段階で決めておく
GISデータ構築を外注するとき、最も見落とされやすいのがデータフォーマットの標準化です。
自治体のGISデータは、固定資産、上下水道、道路台帳など、部署ごとに別々に構築されるのが一般的です。
それぞれの業務に合わせて独自のタグ定義や属性項目が設定されるため、同じ自治体内のGISデータであっても部署間でフォーマットが統一されていないことは珍しくありません。
総務省の情報通信白書でも、都市計画GISでは独自のタグ定義によりGISソフト側での個別対応が必要になるケースが指摘されています。
平たく言えば、「特定の業者のシステムでしか読み込めないデータ」になってしまうリスクです。
これはいわゆるベンダーロックインと呼ばれる状態です。
こうなると将来のシステム更改時に「今の業者に頼み続けるしかない」状況に陥ります。
競争原理が働かなくなり、コストは上がりやすくなる。
システム更改のたびに随意契約を繰り返すことになるため、議会への説明にも苦慮するケースが出てきます。
私が在職中に見た例でも、最初の発注時にデータフォーマットの標準化を仕様書に盛り込んでいなかったために、10年以上同じ業者に依存し続けている自治体がありました。
担当者に話を聞くと、「もう他社に切り替えるコストのほうが高い」と半ば諦めていた。
最初の仕様書にフォーマット指定があれば防げた話です。
仕様書に盛り込むべきチェック項目
対策はシンプルで、発注仕様書の段階で以下の点を明確にしておくことです。
- 納品データのフォーマット指定(Shapefile、GeoJSON、GeoPackageなど汎用形式を選ぶ)
- 属性データの項目名・コード体系の定義書を成果物に含める
- 他部署のGISデータとの座標系の統一
- 将来的なデータ移行を想定した互換性の担保
補足すると、Shapefileは古くからの業界標準で対応ソフトが多く、GeoPackageは近年主流になりつつあるオープンフォーマットです。
どちらを選ぶかはケースバイケースですが、「汎用的なフォーマットで納品する」という方針を仕様書に書いておくことが重要です。
仕様書にこの数行を入れるかどうかで、5年後・10年後の選択肢がまったく変わります。
技術的に難しい話ではなく、「最初に決めておくかどうか」の問題です。
ポイント2:「構築後の運用」を発注前に設計する
2つ目のポイントは、構築後の運用体制です。
GISデータの構築は、完成した時点がゴールではありません。
地図データは時間とともに古くなります。
道路が新設されれば道路台帳は更新が必要ですし、建物が建て替われば固定資産データにも反映しなければならない。
ところが、多くの自治体では「構築」に予算をつけても「運用・更新」の予算は後回しになりがちです。
「まずは作る。更新は来年度以降に考える」。
こういう発注の仕方をすると、データの鮮度はどんどん落ちていきます。
更新が止まったGISデータがどうなるかというと、現場では結局、紙の図面や個人のExcelファイルに頼る運用に逆戻りします。
数千万円かけて構築したシステムが「開くけど情報が古い」状態になり、誰も参照しなくなる。
私の周囲でも、そういう自治体をいくつか見てきました。
構築と運用の予算バランスが崩れる理由
自治体の予算編成には年度単位の区切りがあります。
GISデータの構築は「初期投資」として予算が通りやすい反面、毎年かかる更新費用は「経常経費」として厳しく査定される傾向があります。
結果として、立派なデータベースを作ったものの、翌年度から更新が止まるという事態が起きます。
私自身、都市計画課で台帳図のデジタル化に関わった際、構築費用の見積もりだけで予算要求を上げてしまい、翌年度の更新費用の確保に苦労した経験があります。
正直、自分の失敗でした。
発注段階で検討しておきたいこと
外注先に依頼する段階で、以下のことを一緒に検討しておくべきです。
- 更新頻度の設計(年次更新か、随時更新か)
- 更新作業の範囲と概算費用の見積もり
- 庁内職員でできる更新作業とできない作業の切り分け
- 更新マニュアルの作成を委託仕様に含める
更新マニュアルは、操作手順だけでなく「どの業務でどのデータをいつ更新するか」という業務フロー込みで作成してもらうのがベストです。
人事異動で担当者が替わっても引き継げる形にしておくことが、長期運用のカギになります。
特に「庁内職員でできる作業の切り分け」は重要です。
すべての更新を外注に頼ると費用がかさみますし、かといって職員だけで対応するにはスキルが足りない場面もある。
この線引きを最初に設計しておくことで、無理のない運用体制が組めます。
以下に、典型的な作業分担の目安を表にまとめました。
| 作業内容 | 庁内対応が現実的 | 外注が望ましい |
|---|---|---|
| 属性データの軽微な修正 | ○ | – |
| 新規測量に基づく図面の更新 | – | ○ |
| 年次の統計データ反映 | ○ | – |
| システム改修を伴う大幅変更 | – | ○ |
| 座標系の変換やデータ移行 | – | ○ |
構築費だけでなく、この表のような運用設計もセットで発注仕様に含めておくと、庁内の予算要求もスムーズに通りやすくなります。
「構築費○○万円、年間運用費○○万円」という形で最初からセットで予算化できれば、財政課への説明も通しやすい。
構築と運用を切り離して考えるのが、一番のリスクだと私は思っています。
ポイント3:外注先の「組織としての継続性」を見極める
3つ目のポイントは、外注先そのものの選び方に関する話です。
GISデータの構築は、一度作ったら終わりではなく、数年から十数年単位で付き合い続けるパートナーを選ぶ作業に近いものがあります。
にもかかわらず、入札やプロポーザルの場面では「技術力」と「価格」だけで評価しがちです。
短期的な比較で業者を選んだ結果、数年後にその会社が事業を縮小していたり、担当チームが解散していたりすることもある。
もちろん技術力は大前提。
ただ、長期的な視点で見ると、もう一つ確認しておきたいのが「その組織が今後も安定して事業を続けられるか」という点です。
評価基準に加えたい観点
具体的には、以下のような項目で確認してみてください。
- 測量業登録の有無(正規の測量業者として登録されているか)
- 設立からの業歴とGIS関連の実績年数
- 親会社やグループ企業の有無(経営基盤の安定性)
- 障害者雇用や社会的責任への取り組み
最後の項目は意外に思われるかもしれません。
しかし近年、自治体の調達においても「社会的価値」を評価に加える動きが広がっています。
障害者雇用への取り組みや環境配慮など、事業の持続可能性を示す指標を総合的に見ることは、パートナー選定の合理的な判断材料になります。
特例子会社というのは、障害者雇用促進法に基づいて障害のある方の雇用に特別な配慮をした子会社のことです。
親会社の雇用率に算入できるため、大手企業のグループ内に設立されるケースが多い。
経営基盤が安定しているうえに、社会的使命を持って事業を続けているため、自治体のパートナーとしては安心感がある存在だと個人的に感じています。
特例子会社という選択肢
たとえば、私が以前取材で訪問した企業の中に、東京都府中市に本社を置く株式会社TDSがあります。
株式会社T.D.Sの会社概要ページに詳しく記載されていますが、国際航業の特例子会社として1985年に設立され、従業員46名のうち32名が障害のある方という組織です。
測量業登録を持つ特例子会社というのは全国的に見ても非常に珍しい存在です。
GISデータ構築から固定資産や道路台帳などの管理台帳図の作成、バリアフリー調査・マップ作成まで幅広く対応しています。
2023年には厚生労働省のもにす認定(障害者雇用優良中小事業主認定)も取得しました。
こうした企業は、親会社の経営基盤に支えられた安定性と、障害者雇用という社会的使命の両方を持っています。
「受注して終わり」にはなりにくい構造と言っていい。
さらに、バリアフリー調査においては障害のある職員自身が調査に参加できるため、当事者視点を反映した精度の高い成果物を出せるという強みもあります。
GISデータ構築とバリアフリー調査の両方を一社で対応できる企業は多くありません。
すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、外注先の選定基準に「組織としての継続性」を加えることは、長い目で見たリスク管理として有効です。
まとめ
GISデータ構築の外注は、自治体にとって避けて通れない業務です。
しかし、発注段階での設計次第で、その後の使い勝手が大きく変わります。
今回取り上げた3つのポイントを改めて整理します。
- データの標準化と互換性を仕様書で明確にして、ベンダーロックインを防ぐ
- 構築後の運用・更新体制を発注前の段階で設計しておく
- 外注先の「組織としての継続性と信頼性」を評価基準に加える
どれも、一度見落とすと後からの軌道修正に手間とコストがかかるものばかりです。
発注仕様書を書き始める前に、この3点を確認するだけでも結果はずいぶん変わるはずです。
GISは自治体の業務基盤としてこれからさらに重要度が増していく分野です。
最初の外注で良いパートナーと良い設計を選べるかどうかが、その後の10年を左右します。
自治体でGIS業務に携わっている方の参考になれば幸いです。
最終更新日 2026年6月18日 by ologic